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ハロウィンをキミと!?

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【雨宮 目線】

 

 

 

 

10月31日 巷はハロウィンで賑わっているけど、まったく関係ない世界だと思っていた僕は、どういう訳か、マントをひるがえし学校の廊下を歩いていた。

放課後という事もあり、人通りが少なくなっていても誰かとは遭遇する。

男子生徒は、知らない顔をしているか、小馬鹿にするように微笑を浮かべ、

女子生徒は、黄色い悲鳴をあげ手を振ってくれる。

 

「Trick or treat♪」

 

笑顔で手を振りかえすと、女子生徒は”可愛い”と騒ぎながらポケットに入っていた飴をくれた。

 

「・・・・可愛いじゃなくて、カッコイイだよね。吸血鬼なんだから」

 

少し頬を膨らませ、マントの端を持ち恰好をチェックする。

黒で、シックにまとめられた吸血鬼のコスプレ。薄く安っぽい感じはせず、意外と大人っぽく着こなせてるっと自分では思ってるんだけど・・・

 

「凛ちゃん、カッコイイって言ってくれるかな♪」

 

彼女は、いつも僕を年下扱いして事あるごとに”可愛い”というけど、僕はそれじゃ嫌なんだ。

凛ちゃんに、カッコイイって思ってもらいたいから。

 

髪をかき上げ、僕は凛ちゃんのクラスへと急いだ。


 

********

 

【秋岡 目線】

 

 

職員室での用事をすませ、受持ちのクラスへと足を向けた。

日直日誌を持ってくるはずの凛が、まだ職員室に日誌を持ってこないからだ。

 

「なにしてるんだ、あいつは」

 

誰かに用事を押し付けられていないか、気になって教室に足を向けるなんて俺も甘いなっと軽くため息をつきながら、教室のドアをひくと、凛の席に隣のクラスの橘が座り、教室には凛の姿はどこにもなかった。

 

「橘、どうしたんだ?」

 

「あ、如月に今日部活がなくなったって、伝えに来たんです」

 

「で、その如月は?」

 

「俺が来た時には、教室に誰もいませんでしたよ」

 

「そうか」

 

少し沈黙が流れる。

チラリと凛の机を見ると、机の横に鞄がかけられていたから、校内のどこかにはいるようだ。

 

「如月を待つついでに、ここで用事をしているから、如月が戻ってきたら、部活がなくなった事を伝えておこうか?」

 

気を効かせていったつもりだったか、俺の申し出に考える間もなく返事が返ってきた。

 

「いいですよ。一緒に帰るつもりなんで、待ってますから」

 

「・・・・・」

 

「俺、待ってるんで、如月に用があるなら、伝えておきましょうか?」

 

一緒に帰るつもりなんで・・・か。

なんだか目に見えない攻防をしている気分になる。

教室で待たなくても、職員室で待っていればいいだけの話だが、なぜか俺はここを動く気になれないでいた。

部活仲間と一緒に帰る。当たり前の風景だけど、俺はその中には入れない。

もどかしくやり場のない想いは、覚悟していたはず。

この想いを公に出来ない以上学生に、嫉妬心をむき出しにしても大人げない。

 

「いいよ、入れ違いになったらいけないからな。教室(ここ)で待つとするよ」

 

俺は、いつもの笑顔を返し教壇に備えられていた椅子に腰をおろす。橘が短い返事を返した後、教室のドアの向こうに人影を感じてそちらに視線を向けた。

 

 

*********

 

【橘 目線】

 

秋岡先生の視線に誘われるように、教室のドアへと視線を向けると、ドアがガラリと開いた。

 

「Trick or treat~~~♪」

 

無駄にテンションが高い、吸血鬼がドアを開け大手を広げている。

 

鳩が豆鉄砲を食らった顔をしている秋岡先生と俺をよそに、その吸血鬼は教室を見回した。

教室に俺と秋岡先生しかいない事を確認すると少し恥ずかしかったのか頭をかきながら、秋岡先生に歩み寄っていった。

 

「凛ちゃん・・・・っと、如月先輩ってどこかに行ってますか?」

 

一瞬だれか分からなかったけど、よく凛と話している雨宮という後輩だと気づいた。

 

「それが、日直日誌を持ったまま行方不明になっているんだ」

 

「残念・・・」

 

秋岡先生から凛がいない事を聞くなり、吸血鬼はガックリと肩を落とした。

 

「えっと・・・・・。雨宮・・・くんだったけ?なんでそんな恰好?」

 

文化祭な訳でもなく、明らかに学校に不似合いのその恰好。

 

「似合ってない?」

 

「いや。そういう訳じゃなくて・・・・」

 

「あぁ、そうか今日は、ハロウィンか」

 

そう答えた秋岡先生に、雨宮はうんうんと頷いている。

 

「今日、部活練習なくなっちゃって、ハロウィンパーティーするとかで先生が用意していた仮装の衣装に着替えさせられちゃってさ」

 

着替えさせられてと言うわりには、ノリノリに見えるけど・・・・

 

「そうだ!如月先輩にいろんな恰好みて欲しくて、衣装2、3着持ってきたんだけど、二人とも着ませんか?」

 

「俺は・・・パス」

 

何が悲しくて学校で仮装だなんて。

そもそも、ハロウィンの仮装なんて女子や子供がやるもんだろう。

秋岡先生は、何も返事をせず涼やかな顔で俺たちの会話を教壇から眺めていた。

 

「そっか、残念だな~。凛ちゃんハロウィンパーティーしてみたいって言ってたんだけど・・・・・」

 

凛がしてみたい・・・・・雨宮の呟きが耳に入ってくる。

 

「丁度・・・二人に似合いそうなのがあるのに・・・・」

 

凛をチラチラと餌にされてるのが、気に入らないけどあいつが喜んでくれるなら・・・

単純だなっと思いながらも、俺は雨宮に声をかけた。

 

*****

 

【雨宮 目線】

 

凛ちゃんを餌にするのは気が引けたけど、せっかく仮装するなら凛ちゃんをもっと驚かせたい。

橘先輩は、凛ちゃんがやってみたいと口にすると二つ返事でOKをくれた。

 

 

「橘先輩、これ似合うんじゃないですか?」

 

「え?これか・・・頭に耳をつけるのは・・・」

 

「ネコ耳じゃないんですから!大丈夫ですって。ちょっとつけてみてくださいよ~」

 

「え!ちょっと待てって」

 

「ほら、尻尾もつけて・・・ブレザー邪魔だから脱いで・・・・ネクタイも、ほどいた方がいいかな?」

 

いそいそと、小道具を橘先輩に装着していき、自分でも納得の出来になった。

 

「似合いますよ、先輩」

 

 

「・・・・・・」

 

照れくさいのか、気に入らないのか言葉を詰まらせた橘先輩を絶賛する。

 

「へー、似合うじゃないか。橘」

 

僕の絶賛する声に、秋岡先生も賛同してくれた。

 

「そうですか・・・・どうしてもネコ耳と尻尾に抵抗が・・・」

 

「だから、ネコ耳じゃないですって!狼人間ですよ!男らしくてカッコイイですよ」

 

「うん、確かにカッコいい」

 

「・・・・秋岡先生、顔が笑ってますよ。秋岡先生も着ませんか?」

 

「う~ん。まぁ、俺は教師だしな。やめておくよ」

 

いい逃げ口上が見つかったみたいな感じに微笑む秋岡先生に、僕の悪戯心に火がつく。

 

「教師ってばれなければいいんですよね?」

 

「え?」

 

聞いたことない様な間が抜けた声が、秋岡先生の口からこぼれた時には、僕は衣装を手に秋岡先生の前に立っていた。

 

 

「二人ともよく似合ってますよ~♪」

 

大満足な僕の傍らで、何か言いたげな二人。

 

秋岡先生も「まったく」と深いため息をつきながらも、フル衣装を着てくれた。

赤い包帯に、ペイントまでやらせてくれるなんて。

意外とノリノリじゃないかなっと思ってしまう。

 

あと、これで凛ちゃんが教室に戻って来てくれたらいう事はないんだけどな。

凛ちゃんの喜ぶ顔を浮かべて、心が躍る。

でも、一つ不服と言えば、二人とも仮装が似合いすぎて、僕が目立たなくなったこと。

 

そう思っていたところに、スマホが震える音がしてみんな一斉にポケットに手を突っ込んだ。


 

*********

【如月 凛 目線】

 

 

「あ、凛。今帰り?」

 

「ううん、日直日誌もって職員室」

 


日誌をパタパタさせながら、親友の由美にみせると「ご苦労様」と返事が返ってきた。

 

「そうだ!凛ちょっとちょっと」

 

やけに楽しそうな顔で、鞄の中に手を突っこみ、開いた方の手で私を手招きする。

 

「何」

 

由美の前に立つと、頭にカチューシャの様なモノをはめられた。

 

「え?なにこれ!?」

 

頭を触ると、モフモフとしたぬいぐるみの様な手触り。

 

「ネコ耳♡」

 

「ね・・・・ネコ耳???」

 

「そう。今日ハロウィンでしょ。たまたま、友達がいる部活の前を通ったら、部活のメンバーでハロウィンパーティーやるって、みんなで仮装の道具持ってきててさ。私もこれもらったの」

 

「だからって、今から職員室に行くのに・・・」

 

「秋岡先生なら、さっき準備室の廊下ですれ違ったから、まだ職員室にいないんじゃない?

それに、秋岡先生に日誌渡す前に、好きな人にその恰好みせたら?」

 

「す!!好きな人なんていないよ!!!!」

 

慌てる私をよそに、由美は私のスカートにも何かつけ始めた。

 

「せっかく、似合ってるんだから、誰かに見せないと勿体ないよ。

尻尾もつけといてあげるから、じゃ~ね」

 

「ちょ!ちょっと由美!!!」

 

ネコ耳に尻尾をつけた私をその場に残して、由美は手を振って帰っていった。

ここに来るまでにも、数人仮装した人をみたのは仮装パーティーを部活でしてる所があるからなんだと、納得した。

 

窓ガラスに映る自分の姿を確認する。

フワフワのネコ耳に、尻尾。

恥ずかしいけど・・・・彼に見せたいという衝動にかられた。

 

私はポケットからスマホを取り出し、彼にメールをした。

 

【今、どこにいる?】

 

気がせいて短めのメール。その返事はすぐにやってきた。

 

「私の教室・・か」

 

私は、頭を日誌で隠しながら彼が待つ教室へと急いだ。

 

ドキドキと速まる鼓動。

 

「ハロウィンってなんていうんだったかな・・・・trick・・・」

 

うん。と軽く頷いて浅く深呼吸をして、私は教室のドアに手をかける。

 

大好きな彼に驚いてほしくて、私は彼しかいないと信じていた教室のドアを開け

 

「Trick or treat」

 

と・・・・ちょっと照れくさいけど、黒猫の仮装だし招き猫の様な手も付けてみた・・・・ら・・・・・。

 

「!!!!!!!!」

 

そこにいたのは、ドラキュラの恰好をした雨宮君と狼男の恰好をした橘君。

包帯人間とフランケンシュタインの恰好をした・・・・秋岡先生が、時が止まったようにこちらをみて固まっていた。

 

みんなカッコいい・・・カッコいいんだけど・・・・・

彼以外に二人もいた事に、驚きが隠せない上に、恥ずかしくてたまらない・・・・・。

 

「えっと・・・その・・・」

 

えへへ。と恥ずかしさを誤魔化すように笑顔を作った。

 

「凛ちゃん、可愛い~~~。黒猫だ~」

 

雨宮くんは、私の尻尾をチョンチョンと突きながら、可愛い笑顔を向けてくれる。

 

「おまえ・・・・なんて恰好をしてるんだ・・・って、俺も耳つけてるけど」

 

橘君は、少し照れたように頬を染め私から目を逸らした。

 

「へー。馬子にも衣装だな」

 

秋岡先生は、ネコ耳を触りながら柔らかく微笑んでいた。

 

三者三様の返事が返ってくるけど、彼の返事には違う意味も含まれている気がして落ち着かない。

その上に、普段見慣れない彼の仮装はとてもカッコよくて目のやり場に困る。

 

 

「えっと、あの・・・失礼します!!!」

 

私は、何故か三人にお辞儀をして、逃げるように教室をあとにした。

 

 

【ハロウィンをキミと!?】続く

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凛ちゃん(貴女)の彼氏は!?

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各√ 各絵師さんのスチル付となっています(*^_^*)

 

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